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「おそらが欠伸してる」 さっちゃんは まぁるく おくちをあけて 昼下がりの黄色かかった空を眺めていました。 「あの電柱に昇れば雲がつかめるかしら」 陽々と日が射し込んだ螺旋に繋がる電線 まるで先日 お母さんと観に行った サーカスの団員のように優々と渡る様を ちっちゃな頭のなかで空想して いつまでも空とも電柱ともつかない一点を ぼぅっと眺めているのでした。 そのうちに ひとつの おおきな雲が流れてきて さっちゃんの視界は その雲いっぱいに広がりました。 さっちゃんと おんなじように おくちとあけている ぽっかんと穴があいた雲でした。 その穴から きらきら光りが溢れて来て さっちゃんの肩の周りにも その光りは きらきら溢れて来ました。 さっちゃんが その光りを救い上げると 「やぁ どうも はじめまして」 指先の隙間から声がします。 お母さんは まだ おつとめから帰っていません。 さっちゃんが 辺りを見回すと 「ここだよ さっちゃんの そばにいるんだ」 お母さんに きっちり揃えられた前髪のあたりに きらきら光りが溢れて来ました。 「僕らは皆 旅をしている」 そこで さっちゃんは雲の声だと わかりました。 さっちゃんは びっくりして、ちょっと恐くなって さあっと窓の下に頭を引っ込めました。 「、、、なぁに どぉして さっちゃんに おはなしするの?」 窓から ちょっとだけ つむじをだして さっちゃんは 話しかけました。 「なぁに さっちゃんが あんまり見つめるから 穴があいちゃった、 今日はゆっくり ながれているから さっちゃんと おはなししたくなったんだよ」 「なぁんだ 今日だけなの、、」 窓から さっちゃんが ひょっこり 顔をだします。 「僕らは旅をしてるって言ったろぅ、世界中を旅しているんだ 何十分後に 僕らは さっちゃんの頭のうえを通り過ぎて 別の誰かさんの頭のうえさ」 「どぉして おはなし できるのかしら」 「僕らは皆 ながれていく だから誰も気には止めない だから声をかけても ながれていっちゃうんだ」 ぽっかり穴のあいた雲のはしがパンダのシッポのよぅに まぁるく くっついて いました。 「あっ ちぎれちゃったわ」 ぶらさがるよぅに ついていた まぁるい小雲は 穴のあいた雲から すこしづつ離れていきました。 「どぅなっちゃうの?」 「問題ないよ、僕らは 離れたり くっついたり おおきくなり ちいさくなりながらも ながれていく。 そぅ さっちゃんが 年を重ねて お友達と違う道をあるくよぅにね」 さっちゃんは ほのかに赤い 李のよぅな ほっぺたを 膨らませて 「さっちゃんは違う道なんかに行かないの、 お友達となかよくするのよ。お母さんが言ってたもの」 ほっかりあいた穴から 綿のよぅなヒゲがゆれています。 どうやら雲は笑っているよぅです。 「あっはっは、さっちゃん それは無理だよ。 お母さんも お父さんに出会ったんだろう、 別れがあってこその出会いがあって それは けっして ひとりになることや悲しいことじゃない、 丁度 僕らが おはなしできたよぅにね」 「あっ」 さっちゃんは さっきまで頭のうえにあった雲が ゆっくりかたちを変えながら 空の果てに ながれていくのがわかりました。 「もぉ会えないのかしら」 「さぁ、僕らはかたちを変えて 水になり地上に降りて また空に戻る、さっちゃんと おんなじよぅにね」 ーさっちゃんは お水になっちゃうの?」 ぽっかりあいた穴から薄紅をひいたよぅな光りがヒゲを揺らします。 「あっはっは、さっちゃん、地上の生き物はね、人間も含め 万物が水から生まれてきたんだ、おんなじ処からね。 さっちゃんが生きてるかぎり お水になっちゃうことはないけど やがては全て水になる。そして空の一部になる。 恐いことじゃない、あたりまえのことなんだ。 だから僕らが おはなしできるのも ちっとも不思議なことじゃない」 さっきから雲の声が だんだん遠くなっていました。 「もぉ会えないのかしら」 さっちゃんは もう一度問いかけました。 「また、いつかね。今度は ちがう場所かもしれない、 さっちゃんが大人になっているかもしれない、 声を掛けても気が付かないかもしれない。 だけどね、僕らは皆 おんなじよぅにながれていく。 旅をするんだ、いずれ空に戻る、 かたちをかえたって ちいさくなったって 僕らは皆 旅をするんだ」 最後のほぅの声が途切れてしまいました。 雲は さっちゃんの頭のうえを ながれて 赤い斜面の空の果てへ向かいます。 さっちゃんは ながれていく雲と赤く染まる空の様子を まぁるく おくちをあけて 眺め続けていました。 ふと、窓の横のテーブルに眼をやると お母さんが作ってくれた おやつがあります。 今日のおやつは穴のあいたドーナツです。 さっちゃんは すっかり真っ赤になった空に ドーナツを透かしてみます。 すこぉし かじって またドーナツ穴から空を覗きました。 この空は忘れません。 SEIKO ITO/2002 |
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